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モキュメンタリー沼 第1章3節 「投稿映像」という免罪符

①ドキュメンタリー系 「ほんとにあった!呪いのビデオ」激動編

「27巻」「シリーズ監視カメラ 製作委員会スタッフルーム」より
先にも書いたが、歴代最長となる24巻(2006年)~41巻(2011年)を担当した児玉和土監督の時代は、中村監督らの創り上げた基盤を強化しエンタメに昇華させた激動の時代である。
「『視聴者による投稿映像』(偶発的に現象を捉えた素人映像)の真偽を調査し紹介する」というセオリーに則り基本一話完結だったモノに巻跨ぎの連作(長編)を導入。
それまで文字通り監督の補佐役で、調査(素材集め)や取材担当だった演出補をキャラ立ちさせ、主体にしたのも彼である。
その流儀は、自身は一切顔出しせず、いささか高圧的な指示はスタッフをキリキリと追い込み、そのカメラは的確に彼らのリアクションを捉え、心情をもあぶり出す。
もう一度言う。国内外問わずモキュメンタリーの大基本は『低予算』である。
その上この制作会社はほぼこれ1本で自社ビルまで確保した剛腕で、予算は常にキチキチ、短時間で最大の撮れ高を確保し、無いモノをあると言い切る編集の手腕が無いと先が無いという切迫感だけは、画面を通してひしひしと伝わってくる。
今回は児玉監督と、結果後継となりシリーズを牽引する演出補時代の岩澤宏樹氏と菊池宣秀氏による印象的な連作、いやその呼称が正しいのかどうか判断し難い作品を紹介したい。(文中敬称略)

 

●「24巻」「ダビング」

事の発端はレンタルビデオ店で貸し出されているビデオの巻末にある余白に、知らぬ間にダビングされていた不気味な映像(※①)
それは被害に遭ったレンタル店店長による投稿で、彼はその後、事故で重傷を負い「(この不気味な映像は)『見たら呪われるビデオ』では?」と怯えて取材拒否したため、スタッフが替わって犯人捜しをする事に。
浮かび上がったのは早口で意味不明な言葉をまくし立てる『吉田』という男。
初めて彼に電話をしたのは当時駆け出しだった演出補岩澤宏樹で、その後、23巻の「廃神社」で恐怖体験をした演出補大谷直樹が休職、その代打として初登場した菊池宣秀と共に吉田を追い詰め、インタビューにこぎつけるが会話にならず、やむなく『問題映像』を見せた直後に吉田が狂乱。岩澤を暴行(流血)して逃亡、狂気じみた手紙で回答を寄こした後失踪する。
その手紙を解読したところ、問題映像は吉田の元勤務先のロッカーにあったモノで、あまりの不気味さに「見たら呪われるビデオ」だと確信し、映画「リング」の法則に則り「ダビングして伝播」しようと目論んだと。
「問題映像」(警告のカウントダウン付き)とは、廃墟のようなロッカー室を低位置からの定点で捉えた映像で、並んだロッカーの扉の一つがゆっくりと開き、その手前の壊れたロッカー扉の隙間から、顔半分が赤い女の頭部がぬぅっと現れカメラを睨めつけるというモノで、そもそも当事者が会話不能なほど壊れており、失踪したため調査は続行不可能…のはずだったが…。
※① 当時レンタルされていたのは主にVHSのビデオカセットで上書き防止のため爪が無いが、往年の音声テープ同様、爪を細工すれば上書きでき、いわゆる(心霊映像、スナッフ云々よりセルフポルノ等の期待値として)『消し忘れ映像』『上書き映像』として都市伝説となっていた。
その始祖はかのクローネンバーグ監督の「ビデオドローム」であり、ぶっちゃけかの「リング」の発端となった「ロッジの貸し出し棚の隅にあった私製と思しき無ラベルのビデオカセット」は、一般的にセルフポルノの可能性が高く、男女混合でお泊りに来たJKらがノリで手にする(して欲しい)シチュだった事も特筆しておきたい。

 

●「26巻」「シリーズ監視カメラ 製作委員会スタッフルーム」

「24巻」の「問題映像」の発見者吉田の失踪により、調査断念となった「ダビング」。
ところがその後、スタッフルームで異変が頻発(※②)無人の深夜に物入れの扉が乱暴に開いたり物が落ちたり、ついには菊池が在室中、監視カメラに窓の外を髪の長い女が過ぎる姿が映り込む。
一方、「ダビング」の反響は大きく視聴者から数々の霊障報告が届いていた。
中でもある女性は「赤い顔の”男”」の霊に取り憑かれ、昔馴染みの僧侶にお祓いをしてもらう羽目に。僧侶曰く、女性を襲ったのは早逝した彼女の兄の霊だが、本来穏やかに彼女を見守っていたはずの霊が突然荒ぶったのは あの「問題映像」に「霊力を強める力が宿っている」と。
また彼らが僧侶からの手紙を読んでいた際、岩澤が原因不明の昏倒をしたため、スタッフは途方に暮れ、危険が及ばぬよう一時避難的な引っ越しまで行うが…。
※②「(製作委員会)スタッフルーム」とは。都心の雑居ビルの3階にあるいわゆる制作室で、細いウナギの寝床状の一室。監視カメラはその入口上部から奥を撮影しており、突き当りにはスタッフの机と二面窓、「投稿ビデオ」等々の保管庫がある。
また奥の窓の外は隣接するビルの壁があるだけで 眼下は人一人通れる程度の深いビルの谷間になっており、当然人が歩ける場所ではない。

 

●「27巻」「シリーズ監視カメラ 製作委員会スタッフルーム」

24巻の「ダビング」に端を発し、「問題映像」の発見者吉田の失踪、スタッフルームでの異変による引っ越し等々対策を講じても怪異が収まる気配が無く、新居ではついに岩澤が異変の餌食となる。
彼が深夜スタッフルームで仮眠中、赤い服の女の悪夢を見て飛び起き、同時に定点カメラの前を黒い靄のような人影が過ぎったのだ。
一方、失踪した吉田の同級生という男性市村からコンタクトがある。
彼は、吉田の幼稚園~高校の同級生で、24巻を見た友人からの連絡で事態を知り、失踪した吉田はその後、山中の廃墟で縊死した事実を打ち明け、「実は中学の卒業式のホームビデオに映った吉田に異変が起きていた」と言うのだ。
それは中学の卒業式直後、市村の父親が撮影した映像で、2人のうち吉田の頭部だけが一瞬掻き消えるというモノだった。
スタッフ(演出/児玉、演出補/岩澤と菊池)は吉田の自殺現場の現地取材を決行。
そこは人里離れた山中にある宗教団体の廃施設で、着いたのが夕方だったため二手に分かれるが、岩澤だけが待ち合わせ場所に戻らず、1時間ほど経って戻った時には様子がおかしくなっていた。 彼はぼんやりした様子で、何を聞いてもぼそぼそと曖昧に答え「皆が消えたから、山中を探し回ってた」と言うのだ。
また彼のサブカメラには、取り乱し泣き叫びながら必死で藪をこぐ様子が残されており、結局一旦休職し、馴染みの神社でお祓いを受ける事に。
スタッフはすでにその宗教団体の元信者で幹部だったと言う男性を探し当て話を聞く事に。
彼によれば、かつて団体には道川という母娘がいて、ペアで悪霊祓いの儀式を行っていたが、14年前簡単だったはずの儀式に失敗、娘が狂乱して施設内で自殺した事がきっかけで撤退したと。また「娘には『霊力を強める』能力があった」とも証言。前述の僧侶の言葉を想起する事に。

 

一方、市村から吉田の自殺現場にあった遺留品を渡すと連絡があり、3本のビデオテープが届く。
うち1本は「ダビング」の『問題映像』、1本は中学卒業時の首無し映像、残る1本は宗教儀式の盗撮映像のようだった。
また道川(娘)の名を聞いた市村が、「道川(娘)は中学時代吉田の恋人で、母子家庭で引っ越しが多く間もなく転校して自然消滅したはずだが」と証言。

 

問題の『儀式映像』とは。
撮影場所は特定できないが、暗いろうそくの明かりの中に巫女装束の2人の女性、若い方はろうそくの前に坐し、年配の方は儀式を執り行っているようだ。
問題部分はそのろうそくが消える寸前、ろうそくの間に人の顔が浮かび上がるものだが、真っ暗になった画面の中で、若い方が獣のように絶叫し転げまわる姿が見て取れる。
それは画面周囲の黒みから盗撮映像と思われ、その儀式に立ち会った件の元幹部によれば、その映像は確かにその儀式のモノで、部外者が介入したため失敗したのでは?と言うのだ。
さらに市村からは、当時度々吉田に父親のカメラを貸しており、その映像も父親のカメラのモノと言質が取れる。

 

実はこの騒動にはオチが無い。
当の吉田も彼の元カノ道川(娘)も死亡し、団体の残滓はあるようだが元幹部を名乗る脱退信者以外内情を知る術がない。また道川母娘の関係性も言及されておらず、果たしてそれが虐待に当たるのかも定かではない。
ただそこには、早口でヤンチャだがフツーの中学生であったはずの吉田が成人後、なぜ意思疎通すら難しいほど壊れたのか、関係者以外立ち入り禁止であったであろうその施設に、なぜ潜入し元カノ母娘の儀式を盗撮したのか、果たしてその行動の意味するところは何なのか、全ては謎のままである。
ちなみに一旦はかなりヤバかったであろう岩澤は、製作委員会御用達の神社で厳しいお祓いを受け、間もなく職場復帰したと結んでいる。

 

 

何度も言うが、これまで巻跨ぎの続報もあったし、中にはどう考えてもあり得ないというあけすけなモノも無きにしも非ずだったが、このエピに関しては、ぶっちゃけ「問題映像」や証言の真偽、読者投稿の小品などどうでもよくなるほどの説得力があると言い切りたい。
現在も活躍中の岩澤氏もクセの強い方で斜目に見られるのも当然だが、もし錯乱し茫洋とそのビデオを眺める姿が演技なら役者としては超一流、または彼をそう見せた児玉監督の演出力も並大抵じゃないはずだが、その先それを裏打ちする何かをとんとお見かけしないのもまた事実。
正直猫騙しは多い。小品を差し挟みつつのバラで見れば、ご都合主義の与太話にも聞こえるが、こうしてエピソードごとに追うと、そこらの心霊系OVが裸足で逃げ出すリアリティが浮き彫りになるこの妙味。

 

重要なのは『このシリーズだからこそ』それを仲間内の家飲みでツッコみながら笑い飛ばすもよし、そういやさと突然の打ち明け話に盛り上がるもよし、オカ板に棲みつくもよし、当方のようにガチで加勢した挙句、TVゲストの某敏太郎氏に「え?信じてたんすか?」と言われて落ち込むもよしなのだろうなと。このユルさ、クセになること請け合いかと。
ちなみに吉田がダビングした「問題映像」は、白石晃士監督の同シリーズ「~THE MOVIE」の問題映像レベルの禍々しさなので閲覧注意、後半の「儀式映像」は、画像そのものは配信だと判別が難しいし”らしく”見える箇所はピンポイントのみだが、DVDで明度等々弄れば「言われればそう見える」レベル、けれど”道川(娘)”が発していると思しき嬌声は真に迫って恐ろしいのでやはり閲覧注意。
信じるか信じないかはあなた次第、呪われるか呪われないかは運次第…と結んでおこうか。

 

 

■ 合わせておススメ

 

●「奇談百景」 「空きチャンネル」「どこの子」

かのヒット作小野不由美氏原作中村義洋監督の「残穢」の前史的同名短編集を原作としたスピンオフ作品。中村義洋白石晃士安里麻里、大畑創、内藤瑛亮といった錚々たる監督陣の一人として岩澤宏樹監督が参加している。
受験を目前に控えた男子高校生がラジオの空きチャンネルから聞こえる不気味な女の赤裸々な恨み節にハマり壊れていく「空きチャンネル」、山中の学校に現れる”残業中の男性教師を翻弄する”少女の霊の恐怖を描いた「どこの子」。
前者は女の狂気が凄まじく、壊れゆく友人を傍観せざるを得ない親友の存在も印象的。後者は”学校怪談”のようなテイストで少女の霊の外連味が妙味。

 

●「パラノイアック」

同じく岩澤宏樹監督による「青鬼」「デスフォレスト」等々のヒットを捉えたフリーゲーム「PARANOIAC」の映像化作品。心を病んだ女性小説家(小西キス)が謎の自殺を遂げた叔母の事を小説にしようと、その死に場所である廃墟に行き怪異に襲われるというPOVメインの作品。タイムトラップの脚本は緻密だし、ラストシーンでは崇高にすら見える”怪物”など見どころは多い。パニックシーンは手練れのPOV好きでもキビしいが、ビデオカメラが年代別に違うので暗視色等々で見分けると解りやすいかも。
ちなみに”怪物”を演じたのは本編にもエイタ役で出演し「星に願いを」(2019年)「真・事故物件/本当に恐い住民たち」(2022年)等々で大注目されている佐々木勝己監督。またスプラッターも強めなので要注意。

 

 

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当方ビデオ時代からのファンなので、制作会社推しのB~Z級の怪作や韓流ドラマ等々の予告編、チャプターや冒頭の警告テロップのパターンや凡ミス探し、映像には登場しない製作陣、報奨金額の編纂等々の徹底チェックが可能な盤こそがおススメかと。信じるか信じないかはあなた次第だが。