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モキュメンタリー沼 第1章5節 詰まるとこ”ほんと”か”ウソ”か

ほん呪Special4「ヒッチハイク」より

何度も言うが本当っぽければ真偽はどうでもいい派である。
ツッコむのはシャギっぱなしのあけすけな合成動画と、女性スタッフにあえて極寒の深夜、薄着生足ミニスカで山奥の化けトン歩かせたり、凶暴な人物にゲリラ取材させたり、素手で異物や死骸を触らせたりする悪趣味くらい。
さて今回は「もしかしてガチ(かも)」編。
申し訳ない事に若い巻は現在より合成や詰めが甘く(誤字誤用も多く^^;)、”ビデオテープ”という柔軟な素材に頼り過ぎてる感もあるが、そもそも恐怖体験やソレっぽい映像が偶然撮れても発表の場が無い時代であり、最低5000円最高20万もの報奨金目当てのガチ勢=危険な廃墟廃屋への不法侵入や遺痕旧跡聖域忌地にツバするような迷惑行為に血道を上げた輩も少なくないはずで、その分『ガチガチのガチ』の可能性も高いはず(期待値)。
それでは。偽物だと論破し難い、作りだとしても凝り過ぎててうっかり信じちゃうほどのガチ(かも)系をご紹介しよう(文中敬称略)
 

●「3巻」「4人いる」

非常に不可思議なのは「4人いる」。
かなり川幅がある河川岸で盛り上がる若い男女4人が、交代でビデオ撮影をしていたところ、ふいに画面がぼやけて4人全員が映った次の瞬間、カメラがふわりと宙に浮き、ワンカットだけ対岸から4人を撮ったショットに切り替わるというモノ。
まー「(1人は撮影してたのに)4人全員映る」というのは5人いれば済む話なので、問題は「カメラが”ふわりと”宙に浮き」「対岸からのショットに切り替わる」という部分。
何せ3巻目なので予算は絶望的だったはずで、クレーン等々の導入や大切なカメラ機材をぶん投げたとも考えにくい。
またカメラの浮き方がドローンっぽいんだが1999年当時には産業用の高額機が導入され始めたばかりで同じく考え難い。
考えられるのは、ロケ地を変えて何ショットも撮って編集してる可能性だが、予算上時間も余裕も無いと考える方が無難な気が。
はてさて真実やいかに。
まだ駆け出しの3巻目なので、収録数はVHS版が7本、DVD版で12本と盛ってはみたモノの、1巻の「白い着物の女」の続報スタートでツカミも弱く「言われたらそう見えるかも」(配信だとさらにキビシイので盤がおススメ)「募集したらこんなの来ちゃいました」のオンパレで。
確かにその分ガチかもしれないが、色んな意味で当時の苦労が偲ばれる巻である。

 

●「16巻」「死の予告」

福田陽平監督が初登板された巻で、ゾッとしたのはいわゆる「自殺動画」系の祖「死の予告」。
製作委員会に唐突に送り付けられた差出人不明の大量のビデオテープ。
録画されていたのは、狭いアパートで暮らす若い男の日常だった。
詳細は一切不明、モノクロ風の荒く暗い画面で(憶測)ナレも無し。 カメラは部屋の入口脇から室内を映す定点1台で、手前左に出入口、右にFAX付電話機があり、開けっぱなしの仕切り戸の奥にはベッドと向かいの建物が間近に見える窓がある。
男はおそらく就活中で、冒頭カメラを仕掛ける時点では明るい未来に胸躍らせる様子が見て取れるが、アポ電をかけてはスーツ姿で出て行くものの結果は得られず、次第に疲弊し部屋は汚れ、ベッドに腰掛け頭を抱え、たまの電話に飛びつくも肩を落として切る日々が続く。
やがて男は「…死にます。…死ぬ」と呟いて首を吊るのだが…。
カメラは冷徹にも天井からぶら下がり動かなくなった男を撮り続けるが、そこでふいに警告カウントダウンが入り、けたたましく電話が鳴り留守電に切り替わる。
相手の声は明らかに男自身のもので
「…知らないから もう」と拗ねたように言い捨てて切れたのだ。
男にどんな事情があったか知る由もないし、そもそも撮影中に縊死しているので、その遺品とも言える大量のビデオを送りつけたのは第三者という点でもゾッとさせられる。
他にも特番常連の沖縄の観光地の崖から飛び降りる人影「卒業旅行」、現象より投稿者ヤバくね?系の「引っ越し先に…」、卒業の思い出に撮った人気女子の映像に混入する悪意「体育館に唸る音」、デート映像に響き渡る幼児の絶叫「叫び」等々、もつれた人間模様を抉った作品集となっている。

 

●「54巻」「霊界電話」

岩澤宏樹監督時代終盤、岩澤氏自身が取材対象を追い込むゲリラ取材にワクドキした3巻連続シリーズ「失われた仔どもたち」の完結編が圧倒的な巻だが、着目したいのは昭和のママ会映像に混入した不可解な現象「霊界電話」。
映像は投稿者が幼い頃、団地の一室に集まった母親と幼い子供たちが賑やかで楽しく無邪気にはしゃぐ様子をホームビデオで撮影したもの。
総勢3、4組か、好景気時代、母親らはおしゃべりに夢中で、仲よく遊ぶ子供たちのまぁ可愛い事。と、突然画面がフリーズし、故障しかけの電話のような音声が。
しゃがれて微かな老人の声でゆっくりと「…お花…綺麗だねぇ」等々優しく話し始めるが答えは無く、やがて
「… …ゆみちゃんは…今…どこにいるの?」と聞き、その数秒後、幼い少女の声が「…お墓」と応える。
実は投稿者が幼い頃住んでいた団地の隣人が独居老人で、彼の母親によれば、ビデオのような集まりのたび騒音の気遣いをすると「うちにもこないだ孫が大勢来て大変だった」「深夜、親戚が訪ねて来て疲れる」等々にこやかに返されたのだそう。
ただ知る限りそんな事実はなく、冗談かボケだろうと受け流すうち、ひっそりと孤独死していたのだとか。
また映像を見た母親は、声はその老人に似てると証言、「お爺さんにとっては全てが現実で、本当に”視えて”たのかも」と懐かしんだそうだ。
他にも、スマホの音声応答機能で遊ぶJKが何度も聞くうち全く心当たりの無い「イイダケイコ」と応えて不気味な女が出現する「私は誰」。学生寮で見つかったビデオに残された無いはずの踏切で鳴り響く警告音「見えぬ踏切」、高齢者施設の監視カメラがひとりでに動く無人の車椅子と亡霊の姿を捉えた「老人ホーム」等々見どころも多い巻である。
 
 

●「Special4」「ヒッチハイク」「屋根裏」「消えた友人」

Special版とはシリーズの初期(2000~2004年) ①様々な事情から本編に収録しにくい補足や続報、②本編とは良くも悪くもニュアンスが異なる特殊事情の作品を別立てにした小品集で、2023年現在 5作(『Special6』は予告のみ)リリースされている。
今回ご紹介したいのは屈指のリアリスト坂本一雪監督による第4弾。
 

・「ヒッチハイク

専門学校の卒業旅行でヒッチハイク中、田舎の広い交差点で濃霧に阻まれ、困り果てていた女性投稿者2人組の前に現れた白いバン。
女性運転者は快く送ると言い、2人は嬉々として乗り込んだが、助手席にいたトレーナー姿の若い女性は無言でうつむき微動だにしない。
当初から運転者は助手席の女性を無視してよく喋ったが、彼女らが食べていたスナック菓子がいかに身体に悪影響を及ぼすかを熱弁するうちキレ始め、目的地とは別な方向へと向かい始める。
2人は必死で戻るよう説得したが、車は湖畔沿いの鬱蒼とした森の1本道に入り、運転者はさらに「本当に美味しくて身体に良いモノを食べさせてあげる」「大丈夫、もうすぐだから。みんな待ってるから」と言い張って埒があかない。
その間も助手席の女性は無言で微動だにせず、怖くなった2人はなんとか車をを止めさせ脱出したのだが、運転者は車内で誰かに電話をし、猛スピードで森の奥に走り去ったのだとか。
その脱出間際、カメラはサイドミラーに映り込んだ助手席の女性の顔が一瞬爛れて血塗れに変化する様子を捉えていたのだ。
スタッフは2人と共に現地に赴き「車内には複数の名札が落ちていて、助手席の女性を病院か施設に搬送中だったのでは?」との証言を得るが、車が走り去った方向は行き止まりで、病院や施設などは無かったのだとか。
 

・「屋根裏」

入居間もないアパートの天井裏から、毎夜人がいるような異音がして不眠になった投稿者が、天板を開けたところ、8年前の日付が付いた古いビデオテープが落ちてきたのだとか。
それは明らかにその部屋で撮ったもので、中年男が部屋に落ちている何かを拾い、ぼんやりと女の顔が映り込んでいたと。
投稿者はゾッとしたが彼女が見たいと言い出したため2人で見たところ、彼女だけ高熱を出してその後、音信不通となってしまったのだとか。
スタッフは彼を通して彼女を説得、絶対に顔は撮らない条件でインタビューを決行、異変が高熱だけにとどまらず、顔中殴られたような痣と吹き出物が出て失職、頭髪が全て抜け落ちた事実を”見せ”られ愕然とする。
一方で、8年前その部屋の隣に住んでいた男を探し当て話を聞く事に。
その頃、その部屋には中年男とアジア系女性が住んでいたが、男は暴力的で始終喧噪が絶えず、さらに女性は不法入国者だったようで、手入れの際には天井に隠れてやり過ごしていたようだと。
ところが8年前まず女性を見なくなり、やがて男も姿を消したというのだ。
問題映像は、下着姿の中年男が体中を掻き毟っては畳の目から何かをくじり出し(多分シラミ)、鬱々と過ごす様子を映したものだが、途中襖や壁に薄く恨めし気な女の顔が浮かび、台所のガラス戸には長い髪の女が所在なく佇む姿が映り込んでいる。
カメラは明らかに男の視界に入る場所にあるのだが、男が意識している様子がない。それを見たモノはみな後付けで気づくのだ。「果たしてその陰鬱なビデオが何のために撮られ、誰に提出する記録だったのか」と。
 

 

・「消えた友人」

発端は、11巻で紹介された湖岸に現れる少女の姿を捉えた「赤いランドセルの少女」の反響として寄せられた投稿で、投稿者は地方の山間部在住の大槻という若い男性で、曰く彼が撮影したビデオに件の少女が映り込んでいると。
撮影場所は地元の林道で、高校時代、そこに大量投棄されたAVビデオを見つけた彼と石和(イサワ)は、同級生の沼川をからかう事に。
大槻と石和が隠れて撮影してるとは露知らず、やってきた沼川がそそくさとビデオを懐に入れ歩き始めたところに2人が飛び出しドッキリ大成功~!…となるはずが、周囲を見回す沼川の背後の雑木林に少女らしき人影が現れ、手招きする姿が映り込んでいたのだ。
当初仕掛けた2人はそれに気づかず、翌日から石和が欠席、以来音信不通のまま一家ごと町から消えたのだとか。
残された大槻はようやく少女の存在に気づき、小学校時代、その場所で少女が行方不明になった事件があり「そこで少女の姿を見ると、家族が死ぬか行方不明になる」という地元怪談を思い出したというのだ。
また石和の家は近々始まる大規模な宅地造成により間もなく取り壊される…その事も相まって投稿するに至った様子も見て取れる。
 
ところがからかわれた沼川の証言で事態は一変。
沼川は存外大人びた青年で、実家が地元の名士という事で、顔出ししない条件で渋々取材に応じたのだ。
彼によれば、石和が欠席して間もなく石和の母親から沼川家に「息子が何かに取り憑かれたのでお祓いをしたい」と連絡があり、色々手を尽くしたが上手く行かず一家の転出が決まったそうだ。
また小学校時代失踪した少女の名は由利(ゆり)で呼び名は「ゆうちゃん」。
その件も失踪から2年後、沼川家には「娘は無事戻ったが精神を病んでいたので、地元を離れて治療したい」と連絡があったと。
大槻はなぜ言わなかった!と憤慨するが、沼川は大槻らが由利を失踪後『故マメ』(弁当に豆ご飯が多く失踪した事を揶揄している)と呼んでネタ(怪談)話にしてる事も知ってたし、また石和の件も軽々に広言出来ないという”大人の判断”をしたに過ぎなかったと思われる。
また沼川は取材中何度も「故マメ」と繰り返す大槻を穏やかに「”ゆうちゃん”だろ?」と窘めるのも印象的で、年相応のお気楽暮らしの大槻と違い、某かの重責を背負っているかのようにも見て取れる。
スタッフは沼川の案内で由利の失踪時の看板を確認し、取材終了…となるはずが、遅れて届いた11巻の反響投稿でさらに事態が動く。
 
それは「『赤いランドセルの少女』の問題映像に声らしきモノが入ってる」という指摘投稿で、早送りで初めて聞き取れる、幼い少女の「…小学校 …年 …組 …番 …」という自己紹介のような音声で、その最後にははっきりと「…ゆうちゃん」と聞こえるのだ。
「赤いランドセルの少女」絡みの印象的なエピだが、山中で朽ちていた捜索看板なども生々しく、名前のみの公開に踏み切ったのは、同時期発生した少女誘拐事件との差別化を図るためなのだとか。
他にも1本道の極狭路地で若い女性を尾行するうち鼻をつままれた様な逆襲に遭う「尾行」、自死をほのめかす自撮り映像「無名の投稿」、交通事故を見物に行く野次馬根性をせせら笑うかのように出現する「謎の女」等々坂本一雪監督らしいアイロニーに満ちた作品集となっている。

 

新興宗教っぽい女に拉致されかかる「ヒッチハイク」、破滅的な裏社会を彷彿とさせる「屋根裏」、地方の小村で起こった少女失踪事件を発端とする「消えた友人」…真偽のほどは定かではないが、単純な祟りや呪い話、怪奇不可思議現象、お涙頂戴の落とし噺にまとめないこの余韻がたまらない。
近年巻、いや近年の和製モキュのほとんどが横から肩をポンと叩かれ「な?こういう系好きならわかるだろ?」って言われちゃう不作続きの中、初期巻のこのDEEPな余韻は他の追随を許さないと言い切りたい。
昭和レトロだ懐古だののうたい文句で垂れ流される無味無臭の浮ついた記録映像より、このシリーズこそが私が生きた昭和であると。今更だがガチでBOX購入を考え始めた今日この頃である。

 

 

TSUTAYADISCAS TSUTAYADISCAS

 
 
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当方ビデオ時代からのファンなので、制作会社推しのB~Z級の怪作や韓流ドラマ等々の予告編、チャプターや冒頭の警告テロップのパターンや凡ミス探し、映像には登場しない製作陣、報奨金額の編纂等々の徹底チェックが可能な盤こそがおススメかと。信じるか信じないかはあなた次第だが。