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「感染」(2004年) 「このウィルスは、患者の意識に感染する」…「感染てなんですか?!」

「感染」

■ 閉鎖間近の病院で起こった医療事故。その最中置き去りにされた未知の感染症患者を巡り、スタッフらの絶望的な攻防が始まる。
2004年の[Jホラーシアター]の旗揚げ作品で「予言」(鶴田法男監督)と2本立てで公開された病院系ホラー。
■監督/脚本は「世にも奇妙な物語」の短編を数多く手がけ「催眠」(1999年)「シャッター」(2008年/2004年のタイの「心霊写真」のハリウッドリメイク)「呪怨 終わりの始まり」(2014年)等で知られる落合正幸。原案/君塚良一。元作は同監督の「世にも奇妙な物語」1991年放送の「急患」。
■出演/医師:秋葉(佐藤浩市)、魚住(高嶋政伸)、赤井(佐野史郎)、岸田(モロ師岡)、平田(山崎樹範)、中園(羽田美智子)、看護師:師長塩崎(南果歩)、立花(木村多江)、桐野(真木よう子)、安積(星野真理)、患者:鏡の老女(草村礼子)、骨折の老人(谷津勲)、安楽死の老人(前田昌明)、キツネ面の少年(須賀健太)、脳挫傷の青年(山城佑太)、黄色いカーディガンの患者(浅見小四郎)、見舞の着物の老女(森康子)、救急隊員(石橋祐)など。

 

 

■あらすじ

郊外の古い総合病院。入院設備もある人気の病院だが、経営破綻で給与の振込すら無いまま院長が失踪。医療器具は底を尽き、退職が相次いで人員不足も深刻だ。
また廊下には頓挫した内装工事の資材が放置され、発電機も故障し院内は異常に蒸し暑い。
そこでベテラン外科医秋葉が渋々責任者となるが、離婚したての内科医魚住は元妻と金銭面で揉めてイラつき、看護師長塩崎も人員不足による過重労働、医療品不足を訴えるが打つ手がない。

 

その矢先、老人患者がベッドから転落して骨折、外来診療が遅延し放置された脳挫傷の若者が意識不明で緊急入院するに至り、ついに秋葉は外来の受け入れ停止、転院可能な患者を手放す決断を余儀なくされる。
その最中、「未知の感染症で危篤状態」という患者の切迫した受け入れ要請が入るが、秋葉が独断で断ってしまう。

 

そこでスタッフは、転院不可能な入院患者を2階病棟に集める事に。
2号室には物言わぬ少年患者と骨折老人患者、3号室には全身火傷の重篤患者、4号室には脳挫傷で意識不明の若者、6号室の中年患者は末期ガンの苦痛に喘ぎ、担当の魚住に強い薬をねだるが拒否され、
認知症の老女は、スタッフを嘲笑うかのように不意に現れ奇矯な振る舞いを繰り返す。

 

一方、意識不明の火傷患者に注射すら出来ず、先輩ナース桐野に怒鳴られて逃げ出した新人ナース安積は、廊下で鏡に話しかけていた老女患者の症状に怯え、精神科の女医中園に診せに行く事に。
中園は安積に「脳の委縮による症状だ。リンゴが赤く見えるのは脳が作った色を見せられてるだけで、脳の回路が組み変われば見え方も変わる」と語った後、廊下を急ぐ塩崎を呼び止め、老女が持っていた煙草を突きつけ窘めて帰宅する。
塩崎に限らず残ったナース全員が、この数日間不眠不休の激務で疲弊しきっていて、言い返す気力すら残っていない。

 

また、小児科から転向したばかりの新人外科医平田は、勝手に外来患者の傷を縫合し先輩外科医岸田に恫喝されるが、反省どころか反感を抱き、岸田が5号室に仮眠に行った隙に、準備室に持ち込んだ豚肉で縫合の自主練習を始める。
またようやく秋葉から院長失踪の事実を聞いた魚住は「こんな病院辞める気だったのに。今夜を乗り切るのが限界だ」と呻く。

 

一方、塩崎師長は安積が残り少ない注射器で自主練習しているのを見て激怒するが、3号室の火傷患者急変の知らせが入り駆けつける事に。意識不明の火傷患者がなぜかベッドから転落し、傍ではあの老女がはしゃいでいたのだ。
同じ頃秋葉は、救急搬送口に搬送された感染症患者を追い返そうと救急隊員と揉めていたが、眩暈を覚えて「応急処置だけなら」と答えたところで3号室に呼ばれて我に返り改めて断り、駆けつける事に。

 

3号室に駆けつけたのは、秋葉と魚住、塩崎師長とナースの桐野と立花。桐野は優秀な美人で勝気なナースだが、立花は化粧っ気も無く医師の指示が最優先の昔ながらの生真面目なナースだ。
彼らは懸命に処置するが、老女が騒いで現場が混乱、秋葉の「塩化カリウム」という誤指示(正しくは塩化カルシウム)に、立花が反射的に従ったため患者が死亡する。火傷に塩化カリウムはご法度という、極めて基礎的な医療ミスだった。

 

一同は途方に暮れ、塩崎師長は事故を報告するといい、秋葉は「どう指示したかは憶えてないが、責任は俺が取る」とうなだれる。
だがそもそもこの病院を見限っていた魚住は、保身に走って皆を脅し、遺体を温め腐乱を促してカリウム値を上げ、誤投与を誤魔化す方法を思いつく。
幸い火傷患者には身内や友人などの見舞い客も無く、その後解剖に献体されても、死亡時刻のみ改ざんすればバレないと。

 

早速彼らは遺体を2階端の1号室に移して掻き集めた複数のストーブで熱し始めるが、火傷で爛れた体は崩れて異臭を放ち、炎の明かりで少年患者に気づかれる。
また桐野は、3号室の廊下で安積の髪留めを見つけ「火傷患者がベッドから落ちたのは、あんたが何度も注射を失敗して痛くしたからよ!死んだのはあんたのせいよ!」と責め、口封じを図る。

 

一同がなんとか取り繕ったのも束の間、塩崎は、モニターで救急搬送口に取り残された感染症患者のストレッチャーに気づいて蒼褪め、秋葉と共に駆けつける。
ところが患者はすで旧診察室に移されていて、医師の赤井が現れ、魚住も呼ばれて事情を聞かれる事に。
感染経路も感染方法も分らない未知の感染症。その症状は、患者の内臓を緑の粘液状に溶かす最悪なモノだが、患者は生きていて覗き込んだ彼らを見て不気味に嗤ったのだ。

 

秋葉は「衛生局に届けなければ!」と焦るが、赤井は「届け出る前に我々で研究して名を上げよう。莫大な研究費も思いのままだ」とそそのかす。
3人はまず未知の感染症患者を報告もせず取り扱う事に戸惑い怖気づくが、赤井に火傷患者の死亡事故を知られまいとするあまり、やむなく同意する事に。

 

ところが感染症患者をモニターするため一人残った塩崎が、あまりのおぞましさに失神。
一旦は正気に返ってナースセンターに戻るが、医療廃棄物の注射器を素手で掴んで煮沸し大火傷を負った上、耳から緑の粘液を流して昏倒。
彼女の感染は明らかで、秋葉と魚住は、彼女を工事の残材のビニールでベッドごと覆い、脳挫傷で意識不明の青年患者がいる4号室に運び『隔離』とするが、そうとは知らない安積がなぜか点灯していたコールサインに気づいて入室。
別モノと化した塩崎に襲われ感染する。

 

一方、旧診察では感染症患者が緑の粘液だけを残して逃亡。
秋葉と魚住は赤井に急かされ病院内を捜索するが見つからず、やがて立花や桐野にも事態を知られる事となり、彼女らにもそして魚住にも次々と症状が発現する。
「このウィルスは、患者の意識に感染する」…赤井がそう囁いた時、事態はすでに最悪の状況に陥っていた…。

 

 

 

■感想

 

2004年、一瀬隆重プロデュースでスタートした「Jホラーシアター」の旗揚げ作品で、公開時には「予言」(原作:つのだじろう恐怖新聞」/監督:鶴田法男/出演:三上博史酒井法子他)との2本立て。いそいそ劇場で鑑賞し2本ガッツリ見終わった時の充実感は今でも忘れられません。
中でも本作は「世にも奇妙な物語」の「急患」(1991年放送/原案:君塚良一/監督:落合正幸/出演:近藤真彦佐野史郎他)の同監督による自家リメイク作で、ここまで圧巻の仕上がりになるとはと感動した作品です。

 

また奇しくもその約20年後、実際に『未知のウィルスによる感染症』が世界規模で蔓延し、都市機能のほとんどが停止する事態にまで陥ろうとは。
1973年の「日本沈没」の登場人物は、その十数年後、立て続けに起こる未曾有の大災害を知らないため、大地震後に父親が「大地震の後は大火災が起きる!関東大震災の被服廠(ひふくしょう/関東大震災の際、地震による火災で火炎旋風が発生、被服廠に避難していた3万5千人余りの人々が巻き込まれ亡くなった事故)を思い出せ!」と叫んで必死で家族を逃がそうとしますが、家ごと大津波にのまれていきます。
一方、本作の登場人物は2019年からのコロナ禍を知らないため、感染対策はそれ以前のセオリー通りで『隔離』も甘く、患者に素手で触れ、マスクすらきちんと着用しない違和感、そして何よりコロナ過中、実際に方々で起こったであろう院内感染や、それによる隔離対策への不安や恐怖から来る隠蔽なども大変興味深いところです。
ちなみに作中、象徴的な小道具としても活躍するナースキャップ(看護帽)も、感染症対策等々の合理的理由から、現在はほぼ廃止されたようで。

 

また昔ですが、救急で10人ほどの男女混合部屋に入れられ割烹着の賄いさんが配膳ついでに点滴を抜く病院や、交通事故で頭を強打したため「CTでも検査して欲しい」と懇願する家族に「そんなもの使わなくても私は一目見れば判るんだよ!私の診断が信用できないのかね!」と凄まじい剣幕で恫喝する老医院長など、にわかに信じがたい経験が間々あるんで、初見の際には思わずあるある~わかる~とうなづいてしまったり^^;
もちろん優秀な病院や医師に出会い命拾いした事も少なからずありますが、現実は「医は仁術」ではないし、医者やスタッフには最大限の気配りが必要だし、逆に迂闊に信用しないというのが我が家の家訓だったり^^;
まーコロナ過や大災害を経験し人権遵守が叫ばれる今、そんな乱暴な話は滅多に聞かなくなりましたが、病院と言ってもピンキリで、予約制なのに待合室で何時間も待たされる、廊下に不潔な工事用資材や清掃用具が放置されている、患者の死期すら医者のさじ加減で決められ、最後に中園(羽田美智子)が言う「そんなもの管抜いちゃえば終わりでしょ!」という発言もけして無い話じゃない。

 

さてそんな2000年初頭、本作の病院スタッフは皆優秀で真面目な堅物揃いなのですが、それこそが地獄の始まり。
結局誰一人逃げ出さず「自分だけでもしっかりして何とかしなくては」と焦れば焦るほど、事態は悪化し奈落へと転がり落ちて行く。
全身火傷の患者はすでに1ヶ月以上も重篤が続いており、骨折の老人患者、鏡の老女患者もイマドキなら一般病院では受け入れ不可能なレベルの認知症で目が離せない。
スタッフも看護学校を卒業したてで注射も打てない新人看護師や、縫合すらままならない新参外科医、その彼を怒鳴り倒すだけの横柄な年配外科医、そして何より全員が畏怖する謎の医師赤井等々が引き起こすストレスも凄まじい。

 

恐怖シーンの畳み掛けも凄まじく、安積(星野真理)の一瞬だけど妖艶なシーンも「さあ!練習の時間だよ!」も、招かれざる見舞客を追い返す桐野(真木よう子)の「(息子さんは)急変したので、今日はお会いになれません」という台詞も絶妙でした。
男性医師の指示に振り回され、挙句に「感染てなんですか?!」と涙目で問い質す立花(木村多江)、なによりしぶしぶ責任者となった秋葉(佐藤浩市)の優柔不断さ、保身一方の魚住(高嶋政伸)、冷静なようでいてちりちりとした不満を抱える看護師長塩崎(南果歩)、他と折り合わず横柄なだけの中年外科医岸田(モロ師岡)…そのどれもが切迫し、ゾッとせずにいられないリアル。

 

また随所に現れ、スタッフらをそそのかす謎の医師赤井(佐野史郎)の存在は、元作を継承し尚且つ彼でなければならなかったとすら思えるほど独特のオーラを放ち、時折邪悪さを滲ませる鏡の老女(草村礼子)、喪服で菊の花束を抱えた首無し老女(森康子)、キツネ面の少年(須賀健太/子役)、末期ガン患者(前田昌明、浅見小四郎)、骨折の老人(谷津勲)と脇を固める面々にも一切手抜きが無い。
ホラー好きにとってはこの上なく贅沢なフルコースの絶品料理。何度見直しても見飽きない、本気のJホラーここにありという珠玉の銘品だと思います。

 

 

■合わせておススメ

 

1980年公開の破傷風に罹患した幼い少女とその両親の闘いと苦悩を描いた医療系ホラー。みんな大好き「八つ墓村」(1977年)を始め「鬼畜」(1978年)「疑惑」(1982年)等々の骨太な社会派作品で知られる野村芳太郎監督が、感染症への警鐘となるようあえてホラー仕立てにした作品なので、症状もなまじなホラーよりむごたらしく恐ろしいですが、当時はまだ色眼鏡で見られていた『若い女医』という立場、新世代として一気に拡大した因習や習わしに縛られない”自由主義”、親など家族と離れて暮らす(先人の口出しを避ける)”核家族”の在り方を問う人間ドラマとしても秀逸な作品です。

 

2005年のスペイン発「REC/レック」シリーズで知られるジャウマ・パラゲロ監督による医療サスペンス・ホラー。老朽化による閉鎖が決まった島の病院に赴任した看護師は、転院を待つ小児病棟の子供たちが事故でもないのにいきなり骨折したり、夜な夜な響き渡る怪音に怯える事に疑問を抱き、独り原因解明に挑むが…。スペイン作品は基本子供がいたいけで可愛いのですが、その分冒頭の骨折シーンも痛々しく、ラスボスも凄まじく異様。二転三転する謎解きも面白いしキーパーソンも大変印象深い隠れた名作です。

 

2003年公開。エンターティナー神=秋元康の同名小説を同じくユーザー心理を読み解く匠=三池崇史監督が実写化。この最強タッグが贈るホラーエンタメの最高峰。耳に残る着メロはもちろんエンタメ化されたTV特番除霊中に起こる怪異、ミュンヒハウゼン症候群ネブライザー、廃病院等々のショックシーンは未だ他の追随を許さない、何度見ても見飽きない傑作おかわりホラーです。

 

1999年公開。落合監督の劇場用長編第2作、人気作家松岡圭祐の同名ヒット小説の実写化作品。催眠術により多重人格の魔が目覚めるというラブ・サイコホラー。主演の精神科医役は稲垣五郎、ヒロイン由香役は当時「富江」等ホラーで人気上昇中だった菅野美穂。彼女が演じる多重人格者”由香”の凄まじさでガッツリご飯3杯はイケるカルト作。中盤から心が壊れ始めされるがままの”由香”が本当にお人形のように無垢で美しく、追い詰められた彼女と精神科医とのキスシーンも綺麗で切なく胸に迫ります。