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「ノロイ」(2005年) 「多分ね、もう全部だめなんだよ」

 ■2004年(平成16年)に失踪した怪奇実話作家の遺作 怪奇実話「ノロイ」。そこに記録されていた数々の怪異そして真実とは。■制作/一瀬隆重■監督/脚本「オカルト」「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズの白石晃士 ■出演/スタッフ関係者:怪奇実話作家小林雅文、カメラマン宮島、小林の妻景子、登場人物:松本まりかアンガールズ飯島愛、ダンカン、荒俣宏高樹マリア、超能力少女矢野加奈、加奈の両親(父照之、母喜美子)、堀光男、石井潤子、潤子と共にいた少年、大沢真一、まりかの後輩君野みどりなど

 

 

■あらすじ

2004年4月12日深夜。怪奇実話作家小林雅文の自宅で火災が発生。小林は失踪、妻景子は焼死体で発見される。それは小林が2年掛かりで取材制作した怪奇実話作品「ノロイ」が完成した2日後で、その約1ヶ月後、小林から発行元の杉書房にテープが入ったままの古いビデオカメラが届いた。

-「ノロイ」の本編映像

2002年11月。小林は東京小金井市在住の「隣家に中年女性と少年が越してきてから、いないはずの赤ん坊の泣き声が聞こえる」という主婦の取材に行き、カメラマンの宮島と共に隣家を訪ねるが、応対に出た憤怒の形相の中年女性に恫喝され、追い返される。

その映像には、窓から覗く無表情な少年と異音が収録されていた。
音は『複数の人間の赤ん坊の泣き声』と判明するが、再取材の際には、女性は転居し異音も止んだと言われる。
小林は空き家となった隣家に侵入し、玄関先に散乱していた郵便物から女性の名が石井潤子だと知り、数羽の鳩の無惨な死骸を目撃する。
またその5日後、証言者母娘は、車で対向車線のトラックに突っ込み死亡する。

2003年3月放送の超能力実験特番。被験者となった数人の小学生のうち、隠された文字記号を極めて正確に透視し、謎の水と新生児の毛髪と思しき物体を出現させた東京の小学6年生矢野加奈が”超能力少女”だと話題になる。
彼女は能力を使うと頭痛に見舞われ、透視実験では1問だけ顔のようなモノを書き失敗していた。その後小林は矢野家を取材し、母喜美子から「実験後、加奈が体調を崩している」と聞く。

同年10月。お笑い芸人アンガールズと女優松本まりかが心霊スポットの神社を訪ねる特番のロケ中、まりかが異様な気配を感じて声を聞き、狂乱する怪現象が発生。
その背後には白い人影のようなモノが映り込み、以来まりかは無意識のうちに絡んだ輪のような文様を落書きをするようになる。

その映像はお蔵入りとなるが、翌月の怪談ライブ「怪奇実話ナイト」で取り上げられる事に。
その席上、彼女は「(ロケ中)低い声で呼ばれた」と証言。また全身にアルミホイルを纏った異様な出で立ちで登場した”霊能者”こと堀光男はそもそも様子がおかしく、まりかに掴み掛り「鳩がヤマだ!」などと叫んでスタッフに取り押さえられるハプニングが起こる。
彼は日頃から『霊体ミミズ』による地球侵略に怯えて迷惑行為を繰り返し、周辺住民から”キ×ガイ”呼ばわりされている男だった。

同年12月。加奈の母親から「加奈が見えない誰かと話している」と連絡を受けた小林は、本人から「多分ね、もう全部だめなんだよ」と意味不明の言葉を聞く。
また家族での夕食の様子を撮影中、テーブルの皿がひとりでに落下、加奈のスプーンがへし折れる怪現象を捉えるが、加奈が狂乱したため取材中止となる。

12月22日矢野家の取材。加奈が失踪し、その1週間ほど前から堀光男が押し掛け「加奈に会わせろ!」と迫っていた事が判明。
両親によれば、加奈は特に怯える様子も無く、子供部屋に残されていた堀の”霊体ミミズ”警告ビラには、加奈の「たすけて」という文字と件の輪模様が描かれていた。
両親は懸賞金付の捜索に踏み切るが手掛かりは無く、小林は堀に事情を聞くため彼の自宅へ向かう。

堀は『霊体ミミズ避け』として部屋中をアルミホイルで覆っていて、会話もろくにできない状態だったが、いきなり小林のカバンから加奈の遺留品のビラを奪って霊感をえてある場所を霊視し「霊体ミミズが加奈を連れてった!」と叫んだのだ。
また、堀が「『かぐたば』ってなぁな!」と叫んで狂乱するシーンには、画面がノイズで乱れ、無数の不気味な赤い顔のようなモノと子供と思しき顔が映り込んでいた。

同月26日。まりかから連絡があり目黒区のマンションを訪ねる事に。
彼女は「最近また”声”が聞こえるようになった」と訴え、深夜夢遊病のようになって、毛糸や電気コードであの奇妙な輪模様を作っていた事が判明。
また上階からの異音もあり、上階に住む事務所の後輩=君島みどりに事情を聞くが「騒音を出した憶えもないし、変事も無い」と言われる。

2004年1月初頭。堀が霊視した場所が、中野区のマンション3階の大沢真一の部屋だと判明。隣人から「住人は20代の男で始終物音を立てる」「少女(加奈)は見た事が無い」との情報を得る。
また後日、小林らは、大沢がベランダにいた鳩を無表情で鷲掴みにする現場を捉えるが、事情を聞く間もなく転居されてしまう。

同月10日。まりかの就寝中の映像にも『かぐたば』という声が入っていた事が判明して、調査を開始。民俗学の塩屋博士から「かぐたば」=「禍具魂」であり、平安末期、長野県の山間部に流れ着いた呪術師集団を祖とする下鹿毛(しもかげ)村に伝わる奇祭『鬼祭(きまつり)』に登場する”鬼”の呼び名だという事実に辿り着く。
博士によれば、その呪術師集団は、主に犬などを遣って呪殺する”下陰(しもかげ)流”という流派の使い手で『禍具魂』は式神の一種であると。
また古文書には「荒ぶる禍具魂を呪術師が呪いで鎮め、下陰の地に封じた」と記されていたが、下鹿毛村は1978年に建造されたダムの底に沈み、鬼祭も廃止されたと言うのだ。

1月18日。小林は『鬼祭』の詳細を知る長野県の郷土史家谷村を訪ね、話を聞く事に。
谷村は温厚そうな人物で、最後の鬼祭を執り行った石井家の神官から譲り受けた16㎜フィルムをビデオに落としたモノを見せながら詳細を語った。

鬼祭は高台の鬼(おに)神社で行われ、村の子供を浚って荒ぶる禍具魂(パケにある血まみれの鬼の面に鬼の装束)を神官が下陰流の参拝をして鎮める儀式だが、大勢の村人らが見守る中、いよいよ鎮める場面となった時、禍具魂役の女性が錯乱して中断されたきりとなり、ダム建設による凶事と恐れた村人らは「神憑り」「禍具魂の呪い」と噂し合ったのだとか。
その後、神官の石井夫妻と住民らは近隣の三日月集落に移住、村はダムに沈み、夫妻も7年前に立て続けに死亡した。ただ実は錯乱した禍具魂役は夫妻の娘で、現在も夫妻の家に子供と2人で住んでいると聞き、訪ねる事に。

三日石集落は一見普通の田舎町だが、どの家の軒下にも下陰流に則った鎌が飾られ、外飼いされた雑種犬が余所者の彼らを警戒し吠えたてていた。
石井家は2階建ての広い古家だが、外壁のほとんどが件の縄飾りや文様で埋め尽くされた異様な有り様だった。さらに石井家の娘とはなんとあの石井潤子で、あの時同様憤怒の形相でいきなり宮島を突き飛ばし、恫喝したのだ。

小林は愕然とし、取り急ぎ住民に聞き込みしたものの拒否られ、ようやく幼馴染の中年女性を探し当て話を聞く事に。
彼女によれば、潤子は高校時代までは普通だったが、鬼祭を境に「神様の命令が聞こえる」などと言って様子がおかしくなり、その後東京の看護学校へと進んだのだとか。ところがその女性も「禍具魂」という言葉を聞くなりおかしくなり、取材は中断された。

1月21日。小林は東京に戻り、潤子の母校で「卒業後八王子の産婦人科に就職した」「病院はその後閉院した」との情報を得る。
またその病院で同僚だった八王子の主婦は「潤子は仕事ぶりは真面目だが自分の事は一切口にしなかった」「その病院では22週過ぎの胎児を中絶する違法行為が行われていて、その処理係だった潤子が、胎児の遺体を持ち帰っているという噂があった」と証言する。

2月6日。まりかの後輩の君島みどりや鳩の青年大沢真一などを含めた7人が、練馬区の住宅街の児童公園で謎の集団自殺を遂げる。7人に関連性は無く、ブランコの上部にかけられた縄飾り様のロープで首を吊ったのだ。
まりかはみどりが自分への”呪い”の巻き添えだったのでは?と怯え、小林宅に身を寄せる事に。小林の妻景子は健康的な明るい女性で、快く彼女を受け入れる。
また大沢の隣人は「大沢は(反対側の)隣室から聞こえる赤ん坊の泣き声に悩まされ、揉めていたようだ」と証言、その隣人は石井潤子だったと判明する。

また12日には、矢野加奈の父親が、自宅マンションで母親を刺殺し逮捕される。
その頃、小林宅ではまりかが突然正気を失い昏倒、窓には数羽の鳩がぶつかって死亡する怪現象が発生。彼女はその間の記憶が無く、堀の「鳩がヤマだ」という予言から「次は自分の番だ」と怯え、小林と共に堀を訪ねる事に。
2月13日堀の自宅。三日月集落での石井潤子の映像を見た堀は異様に怯えて会話不能となり、まりかはついにダムの底に沈んだ下鹿毛村の鬼神社への参拝を決意。湖面で儀式を成就させ、禍具魂の呪いを解こうというのだ。
小林は再度堀に助力を頼み、まりかと堀を連れ、車で三日月集落経由し、ダムへと向かうが、集落ではあれほど吠えていた犬の姿が消え、しんと静まり返っていた…。

…その後、数々の不気味な怪現象が記録され「ノロイ」は完結するが、その2日後、小林家が焼失して妻景子が死亡、小林が失踪したのだ。そしてその1ヶ月後、失踪した小林から届いたビデオには、さらにおぞましく常軌を逸する”真実”が記録されていた…。

「事実が知りたい たとえそれが おぞましいことであっても」 -小林雅文

 

■感想

我が国のPOVホラーのカリスマ、白石晃士監督の代表作です。
”心霊写真”を”心霊映像”へと進化させた「奇跡体験!アンビリバボー」ジャニーズの面々がMCを勤めた「USO!?ジャパン」等々、70代から続いたオカルトブームがついに終息し始めた2005年8月、当時まだジャンガジャンガしてたアンガがやはり若手女優だった松本まりかと共に心霊スポットを訪ねるTVスポットを目にした時、「ああまたタレントの心霊モノか」とげんなりしてスルーした事をはっきり憶えています。

ようやく手にしたのはその数年後、まず目を奪われたのは、昭和から平成にかけて度々目にしたニュースや光景の極めて緻密な再現度でした。子供による超能力実験特番、番犬用に外飼いされた雑種犬、まことしやかな伝承、自称”超能力者”、アルミホイル(シャマラン監督の「サイン」やWフリードキン監督の「BUG」でもお馴染みの”デンパ避け”)、呪術的な儀式としての動物虐待、謎の失踪、集団自殺…そんな記事が流れるたび、そんなバカなと思いつつもどこかでゾッとし終末観を感じた飽食の時代を。

白石監督に本気で着目したのは「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズ初の劇場版「~THE MOVIE1」。都会の片隅で早朝行き倒れた男の事情を追ううち辿り着くたった1本の『見ると呪われるビデオ』。その暴力的で狂暴な不気味さはまさしく悪夢級で、ガチで呪われたかもという思いがしばらくつきまとった衝撃作でした。

それが一瀬敬重プロデューサーとのタッグとなった本作では一層徹底され、本編やパケに掲載されているのは『登場人物名』のみ、ネットには「伝記作家小林雅文のブログ」がUPされ、プレミアムエディションに於いてなおネタバレは無く、本編内に一部登場する「伝記作家小林雅文による(別件の)取材映像」や「(実在する)禍具魂伝説」の資料等々が収録されているだけという凝りようでした。

ちなみにもう時効なんですが、役者名はWikiに掲載されているのでそちらを。”小林雅文”の子供番組映像をYoutubeで見た時は熱出そうでしたし、”堀光男”が実はまともな人なんだと知った「愛と不思議と恐怖の物語」の「臨死体験」も衝撃でした^^; 
”市井の人”も”狂人”も自在に演じ分ける選りすぐりの俳優陣の活躍を他作で見るたび、彼らのあの切迫したキャラがどうやったら引き出せるのかと心底唸らされます。

ネットを駆使して世界中を本気にさせた「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が1999年、長きに渡るホラーオカルトブームで心霊写真が心霊動画となり、それでもまだ、いや今もなお”本当”か”嘘”かが取り沙汰されるPOVホラー。
私は真偽のほどなんてどうでもいい「怖ければ」。そしてしばらくの間、騙し通してくれるなら。白石晃士監督は間違いなくその先駆だし、中毒性があるのでくれぐれもご注意を。

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・「オカルト」”うんこのような人生”を送っていた横柄で薄汚くみみっちぃ男に降りた『天啓』とは。同時期発生したある事件により公開が危ぶまれたほどのリアリティに愕然とさせられる白石監督の真骨頂。
・「戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦」横柄で暴力的な工藤Dとシュールな人情派AD市川コンビによる都市伝説のバケモノ捕獲作戦 シリーズ第1作。シリーズ終盤には破天荒な結果が待ち受けている白石中毒のパッチテスト的作品かと。