あやし野ビデオ館

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モキュメンタリー沼 第1章 「え……信じてたんですか?」と鼻で笑われてもなお

2022年現在、既に見慣れた存在となった”フェイクドキュメンタリー”もしくは”モキュメンタリー”。
某敏太郎氏に「え……信じてたんですか?」と鼻で笑われようが、同じパターンを何度見せられようが飽きることなく、あったら怖い、今度こそもしかしたらとワクワクさせてくれる魅惑のジャンル。
2000年代初頭からこの沼にハマり、この際真偽などどうでもいい、ともかくホントっぽく怖がらせてくれればとまで思い至ったモキュジャンキーの与太話でございます。

 

①ドキュメンタリー系

創作みを排除、あるいは折り込み済みのまま、証拠写真や映像、インタビューなどで真実味を加算していく作品。

 

●「ブレア・ウィッチ・プロジェクト

・映像科の学生が魔女伝説にまつわる連続不審死が発生している”ブレア・ウィッチの森”の探索に行ったまま失踪。その現場で回収されたビデオには不可解で怖ろしい映像が録画されていた…。
1999年の公開前から作中の事件の資料サイト”ブレア・ウィッチ伝説”を立ち上げ、散々盛り上げてからの”(失踪した学生の遺品の)問題映像”(本編)公開という、今でいうメディアミックス方式での公開。
ところがそうとは知らぬ観客は、コトの真偽を確認しようと固唾を飲んで本編に飛びついたものの、(そもそも設定の”学生作品の未編集映像”って部分は完全にスルーされ)ハンディカメラの素人臭い映画見せやがって!とブーイングの嵐が吹き荒れた問題作として大ヒット。制作費わずか6万ドル(約600万円)で18億6000万円の興行収入を得たことから「ハンディカメラで一攫千金」伝説の始祖でもある。
この作品の事を書くたび、米在住の身内が当時は高額だった国際電話までかけて来て「これガチだから!サイト行ってみ!マジでビビるから!」と言われ、コトの成り行きを生温く見守ってたんだが、公開早々劇場に駆けつけ激怒している身内をなだめつつ、「1983年のラジオ放送で(俳優時代の)オーソン・ウェルズによる『宇宙戦争』で大パニックになった」(後年マスコミによるねつ造だと判明したらしい)という逸話みたいだとニヤついた事を思い出す。ホラー新世紀の始まりだと。
ちなみに2000年には正式続編の「~2」が公開されたが順当なホラー映画だったため不発に終わる結果に。

 

●「ノロイ

・伝奇作家小林雅文の新作発表直前、自宅が焼失し妻は死亡、本人は失踪したが、その後編集部に、彼が数年かけて追い続けていた最期の事件 ”かぐたば” にまつわるおぞましい取材映像が収められたビデオが届く…。
2005年に公開されたJホラーの仕掛け人一瀬敬重とJモキュ界のカリスマ白石晃士監督による、日本初の本格モキュメンタリー。和製ブレアウィッチを目指した事は明らかで、Webでは主人公の”伝奇作家小林雅文”のブログや書籍を紹介するサイトを立ち上げ、DVDのプレミアムエディションですら実名で登場する人物以外は全て役名表記のみ、作中に登場する小エピソードの取材映像の完全版、”かぐたば”の歴史的資料等が収録される徹底ぶりだった。詳細はこちら

 

●「パラノーマルアクティビティ」

・2009年に公開され、我こそはとにわか監督を増産しモキュの振り幅をグンと広げた問題作。
同棲カップルが住む戸建てで起こる怪現象を、あえて素人のホームムービー的に仕上げてあるため、ストーリーも散漫でキャラにも魅力が無く、ぶっちゃけ現象もありきたりで創意工夫も乏しく、純粋にジャンプスケア=ドッキリを楽しむか真偽論を楽しむだけの作品。
怖がる観客の様子しか見せない邦版のTVスポットは集客率が高いと膝ポンする配給会社が続出、2022年現在も続編が止まらず、良くも悪くもモキュを一気に一般化した功績だけは認めざるを得ない作品かと。

 

●「レイク・マンゴー~アリス・パーマーの最期の3日間」

・フツーの女子高生アリスが家族で出かけた近所のダム湖で溺死する。事件性は無く家族が哀しみにくれた小さな事故だったが、間もなく死んだ彼女の姿が写真や映像に映り込んで騒動になり、家族への密着取材が始まる…。
2008年オーストラリア発の異色作。観客は登場人物のインタビューから事の成り行きを見守る形でストーリーが進み、彼女の出生時からの写真や映像でその死を悼むわけだが、死後弟が撮った映像に人影が映り込んで騒動に発展。
それがフェイクだったというフェイントを経て、心霊カウンセラー絡みの人情話、アリスと家族の関係性や彼女の隠された真実等々が明らかになり、息を飲む恐ろしい事実と身を切られるような孤独と哀切の終焉が待ち受ける脚本が実に見事。終盤、時間差で録られたアリスと母親のインタビューのすれ違い、影のように寂寞としたその姿を見るたび涙腺崩壊してしまい。
ちなみに原題は「LAKE MUNGO」、「~最期の3日間」の部分は配給元が勝手に付けた副題でDリンチの某カルト作には無関係。

 

●「オカルト」

・観光名所の断崖で発生した通り魔事件を取材したいという衝動に駆られたプロデューサー兼カメラマンの白石(監督本人)が、事件を追ううち奇妙な現象が起きている事に気づき、被害者の一人で「これまでは ”うんこみたいな人生” だったが、(事件により)”天啓” を受けた」と豪語する男江野(宇野祥平)と出会い、大量殺戮へとひた走るという2009年公開の白石晃士監督作品。
2020年「罪の声」で数々の賞に輝いた宇野祥平の初主演作だが、当時無名だった彼がこの作品をきっかけに数々の白石監督作品に参加。主演を努めるバイオレンス系のみならず、同監督の人気シリーズ「コワすぎ!」にも”江野”として登場し主役を食うほどの存在感を醸す事に。
白石のカメラは卑屈でみみっちい性格のネジ曲がった社会不適応者= ”江野” を執拗にある意味愛情をもって追うが、その端端には確実に現象が起こっており、もしやと思い始めた頃『天啓が示した(選民)江野の役割』の恐ろしさに慄然とさせられる。
その強引無法な実行力や偶然そのものが「だからこその天啓である」と知らぬ間に刷り込まれる白石マジック。全くの無関係だが時期を同じくして実際に発生した”江野”的な男による通り魔事件により上映すら危ぶまれたのだとか。
”江野” があまりにさいてぇ過ぎて何度も見たい作品ではないが、”市井の善人”を演じる宇野祥平を見るたび、未だ彼という役者のムダ使い(こら)これじゃない感に苛まされ続けている。

 

●「ザ・ベイ」

・政府に隠蔽されたその映像には小さな港町の独立記念日イベントの最中に発生した異常事態が記録されていた。映像のほとんどはホームビデオやスマホの映像で、陽気にはしゃぐ人々が異変に襲われ狂い死ぬ様が映し出されていた。原因は沿岸の海底で大発生し生物の体内に寄生し、猛スピードで内臓を食い荒らす寄生虫だったが、判明するまでに住民のほとんどが死に絶え、町が無人と化す凄まじい光景だった…。
2012年公開のバリー・レヴィンソン監督による海洋寄生虫パニックモノ。「レインマン」等人道派作品で知られる監督らしく画のエグさ、人間性の崩壊というより、それぞれが突然訪れた酷い終焉に対峙し、今誰が救えるか、被害を拡大させないためには何ができるのか足掻く人々の姿が傷ましい。中でもその2年後韓国で起こった海難事故の若き被害者の自撮り映像を彷彿とさせるシーンがあり思わず涙した作品。