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うちの子だけどこんな子知らない 取り替え子の恐怖

モキュ沼第2章「アレ的なモノに侵略される恐怖(もしも家族や隣人が見た目そのままで中身だけ別なナニカに変化してたら)」の続きで、非モキュだけど「取り替え子(チェンジリング)」の恐怖。
『取り替え子』とは、知らぬ間に見慣れた我が子が中身だけ別人にすり替わるってヨーロッパの伝承だそうで、その偽子供(トロールや妖精が化けてる)を火にくべれば正体を現して逃げ去り浚われた実の子供が帰ってくるのだとか。
一説には、意図せず子を亡くした手放した等々を取り繕う放言だったり、伝承を信じて「火にくべ」事件化したケース等もあったそう。
子が成長するのはめでたい事だが、ワンオペやワーママで疲弊しきった深夜、無限ぎゃん泣きする我が子をじっと見つめ途方に暮れるその瞬間ふと過ぎる衝動はどこ国も同じのようで。てことで、昭和ワンオペ世代としてわかる~ってなった推し作をご紹介。

 

「ホール・イン・ザ・グラウンド」

2019年/アイルランド リー・クローニン監督
アイルランドの森林地帯の大きな古家に越してきた離婚したての若い母親セーラ(シーナ・カースレイク)と8歳の息子クリス。その森の奥には底が見えないほどの巨大な穴がある。
彼女は早速町の骨董屋にも勤め始めるが、森は深く町や学校は遠く、車はポンコツ、壁紙はDIY、クリスは大のクモ嫌いで「パパに会いたい!街に帰りたい!」とダダをこね、新しい学校にも馴染まない。
またセーラの額の傷もなかなか治らず痛んで出血もするが、医者には「ぶつけただけ」と言い、軽い眠剤を処方される。
一方、離れた隣家の老夫婦の妻ノリーンには徘徊癖と『息子殺し』の噂があった。しかし夫のデズは優しくまともで、当時を知る骨董屋の妻からは「ノリーンは昔、確かに息子を『私の子じゃない!』と騒いで入院したが、退院後誤って轢いてしまった悲劇だ」と聞く。
そんなある夜クリスが消えるが結局何事も無く、それを境に問題の無い良い子へと変化する。
その違和感は凄まじかったが、周囲に相談しても埒が明かず、その矢先、道で出会ったノリーンが車に駆け寄り「(これは)あなたの子じゃない!」と狂乱して騒ぎになり、後日、自宅の庭に首だけ土に埋まったうつ伏せの状態で死んでいるところを発見する羽目に…。

 

森の奥の巨大な穴をどう捉えるかでかなり印象が変わるかも。
彼女の古傷は明らかに元夫の暴力によるものだが、社会的に信頼される立場だったのか、セーラはその被害を誰にも訴えず全て諦めている感がある。 ただ息子は元夫を敬愛し似た傾向に傾きつつある、だから怖いし今食い止めなきゃならない。
セーラは弱い女じゃないし息子も悪い子じゃない。周囲もそれなりでおいおい慣れるのも解ってる…ただどうしても看過できない事がある。
森の奥の巨大な穴、落ちていたGI人形、妻の妄言や子殺し疑惑や不審死を何だかんだで受け入れてしまう老人、鏡だらけの家、クモ…「これは息子じゃない!」…息子であるはずがない…これが証拠!…「じゃあ言って! お前のアタマがヘンだと!」
クライマックスではソレ系と思わせつつ、ラストシーンでおや?っとなって、エンディングには凄まじい爆弾が仕掛けてある。
エンディング曲はリサ・ハニガンの「Weile Waile」
元歌はダブリーズによるアイルランド民謡

 

「森に住んでた老いた女には3ヶ月の赤ん坊がいた。彼女は持っていたペンナイフで赤ん坊を殺し、警官2人と男に捕まり、吊るし首になった」という内容なんだけど、リサ・ハニガン版とその元歌を聞いてどう思うかどう取るか。
エンディングにはフルで訳詞が付いててあまりに酷い内容に鳥肌が立ったし、後日原曲の陽気な囃し歌を聞いた時には怒りで髪が逆立った。いつの時代もどこ国でも女が全て背負わされ、男が全てを取り決め断罪する。
北欧は近年急速に平等化が進んだようだが、例えばノルウェーの人気シリーズ「特捜部Q カルテ番号64」では近年ようやく閉鎖された女子刑務所絡みの事件ネタだし、唯一の若い女性刑事ローセは、反抗期に父親から「以前なら女子刑務所送りだ!」と叱られたとこぼしてるくらいだから、まだ色々あるんだろうなぁと思わずにはいられない。

 

「ババドック/暗闇の魔物」

2014年オーストラリア発 ジェニファー・ケント監督
こちらは子が差し替わってるかどうか定かじゃない疑惑系。アメリア(エシー・デイヴィス)は7年前、お産で産院に向かう途中に事故に遭い、夫を失い長男サムを授かった事で「息子の誕生日が夫の命日」というシビアな事実に縛られ続けてる。
それは呪いのようにアメリアを蝕み、ライターから介護職への転職を余儀なくされ、息子は情緒不安定のダダっ子で、要求はしつこく時にゾッとするほどの凶暴性を発揮し寝る暇もない。
唯一の身内である妹は主婦カーストの勝ち組で、彼女主宰の誕生パーティでサムが妹の娘をケガをさせ、孤立する事に。
そんなブラックな日常の中、サムが父親の遺品の中から黒マントの怪人ババドックの絵本を見つけて読んでとせがむようになった頃から、不可解な現象が起き始め…。
取り替え子云々より悪魔的とはまさにこのこと。この悪魔的ガキの行状の方がババドックより勝ってるので、アメリアは間もなく至極明解な2者択一を迫られる。
「可愛い我が子(クソガキ)をババドックに差し出す(くれてやって黙らす)か、(お約束通り)立派な母親として我が子を守り切り、このクソ喰らえな日常を死ぬまで続けるか」
父親の命と引き換えに生れて以来四六時中つきまとって離れない。それを心から愛おしいと思えるかどうか、「女なら身を削ってでも子を愛するのが当たり前ぇ!それこそが母性ナリぃ!」と気安く括られるのは本当に勘弁していただきたい。

 

ただこの主人公アメリア自身にも問題が無いわけじゃない。
冒頭の妹主宰の誕生パーティにはぶっちゃけ出たくなかった。なぜならそれは『夫の命日が一人息子の誕生日』しかも夫は財産を残さず生活はカツカツ、息子は学校でもお手上げなほどの問題児、そのメガトン級の不幸のどん底にいながら、再就職先が老人介護なんてどこまでいい子ぶれば気が済むの?という意味も含めての、姉を徹底的に見下す 剥き出しの悪意があったから。
この姉妹に何があったかは描かれてないが、以前紹介した「人喰いトンネル」の姉妹と同様、”良い子”であった姉(アメリア)はそのセオリーとして、多くを望まず”人の良い旦那”と”互いに尊重し合う””質素だが愛に満ちた暮らし”を望んでた分、女の武器を最大限に生かし”稼ぎのイイ旦那”を捕獲し”人に自慢できるレベの贅沢な暮らし”を実現した妹を、あからさまに蔑んでいた事が透けて見える。
それをこの息子は彼女の心の闇を見透かすように妹の娘を”やっつけ”「ママほめてほめて!本当はママがこうしたかったんでしょ?」と言わんばかりの態度を取ったため妹と完全に決別した いや『決別させた』のかもしれない疑惑が残る結果に。
この『いい子ぶる』にしても、アメリアの隣人が実は独居老女で疲れ切った彼女を見かけるたび「何か手伝える事はない?何でも言ってね」と擦り寄ってくる。けれど実はその老女自身 介助が必要なほどのひ弱な高齢者で、それを鵜呑みにしたが最後 何十倍もの”支払い”が降りかかるのも解ってるし、むしろその空疎なやり取りをする時間すら惜しい事を少しは考えろ!と怒鳴りつけたい衝動に駆られる事も。
自国オーストラリアやサンダンス映画祭をはじめ数々の映画祭で評判となった作品で、この監督の次回作が「ナイチンゲール」(2018年)だったって事も少々気に留めといて頂きたい作品かと。

 

「グッドナイト・マミー」

2014年オーストリア発 監督・脚本/ベロニカ・フランツ、セベリン・フィアラ
オーストラリア郊外の広大な森とトウモロコシ畑に囲まれたハイセンスな邸宅で、自由に暮らす幼い双子の兄弟エリアスとルーカス。母親は名の知れたTV番組の司会者だが、整形手術を受け帰宅したばかり。
ところが優しく美しかった彼女は顔中包帯だらけで顔を見せず、ヒステリックで暴力的になり、なによりエリアスにだけ話しかけ、ルーカスをガン無視するなどまるで別人のよう。
2人は密かに画策し試そうとするうち、何やら事情がある事には気づくが意味が分らず、ついに彼女をベッドに縛り付け、正体を現すよう拷問し始めるが…。
まず拷問する側が幼い子供なので無邪気な分ともかく酷い。ぶっちゃけおススメするのも気が引けるが、森に佇むハイセンスな邸宅で密かに繰り広げられる残酷なゲームの異様さは特筆に値するし、喩えるなら1976年のスペイン映画「ザ・チャイルド」ピニャータシーンの残酷。
けれど子供らが責めているのは母親か偽物か定かではなく(設定上、”彼らには理解できない”母親の苛立ちやその事情は、母親への同情や子供の行動への反感を抱かせない程度までの伏線は散りばめられてる)、見ている側は子供があんまりいたいけで無邪気だし、その不安も理解できなくも無いし、偽物なら(あまり辛くない内に)とっとと正体を現せ、いやそれにしてもやり過ぎだろと完全バグるしかなく。
母親役スザンヌ・ウエストがまた凄まじい演技力で。兄のエリアスはギリギリ保ててるが、弟ルーカスの方がたまにこらえきれない風にくくっと嗤うんすよね。それがたまらなくイヤ。 ガチで一生フロス使えなくなったかも^^;あ!重要な事書き忘れた!Gダメ勢は閲覧注意!しかも見慣れたヤマトGではなく巨大マダガスカルG しかも『食う』し時に『うじゃうじゃ』タスケテ^^;
で結局どうなんだって?そここそが本作のカナメで、いわゆる『取り替え子』の手順に則っちゃうんすけど、ラストシーンをどう取るかは様々なご意見があるようで。
またあんまり酷いのは苦手という貴方は、amazonオリジナルで母親役ナオミ・ワッツのソフト目のリメイク版を。恐る恐る確認したんすけど、大筋は変わらず拷問シーンは最小限で大問題のGもおらず、母親も元版よりタフで立ち直りも早く、しかもラストはamazonなりの明朗解釈になってるので分りやすい^^; 感想?「それ言っちゃーお終いだろ」で★3つかな^^;

 

「ユー・アー・ノット・マイ・マザー」

2023年アイルランド発 監督・脚本/ケイト・ドーラン
アイルランドの片田舎。地味で顔に火傷痕のあるJKシャーは、母親と祖母の3人暮らしだが、様子が変だった母親が突然「もう限界」と言い残して失踪。母親の弟を巻き込んでの騒ぎになるがほどなくして帰宅する。
ところがその日を境に突然それまで聞いた事も無かったド派手なロックをかけて踊りだし足をくじったり、深夜自分の腕を肘まで飲み込んだりと奇行が増えともかく異様。
一方シャーは同級生から「お前は一度火にくべられた!」と苛められたり、唯一の仲良しスザンヌの親も「あの一家とは付き合うな」と冷たく眉を顰め…。
こちらは大変解りやすいソレ系ネタで、流行の”村系””(ミッドサマー風)フォークホラー”って付いちゃってるんで一応。
主人公の不安もわかるし、イマドキあり得ない伝説を背負う不運にも同情するけど、ともかく作品として片付けが悪過ぎる惜作^^;
まず田舎とはいえ近代的な病院もあるんだがおかしくなった母親を診せるでもない、その違和感をキーパーソンの祖母が補うでもない。また親友スザンヌのワケアリな過去や関係も後出し過ぎて補足になって無いし、そもそも”取り替え子”伝説ホラーに寄せようとすればするほど帳尻が合わなくなってる感が。加えて主人公がかなり自己中で全てが成り行き任せ人任せってのもどうなんだと。
北欧の寒々しく重い空気感は十二分にあるし奇行も不気味で、サクッと見れてそれなりの結果になるんで、お気軽にお試しあれ。

 

「チェンジリング」

1980年カナダ発 監督/ピーター・メダック
高名な作曲家のジョン(ジョージ・C・スコット)は、家族旅行中 交通事故で愛妻と幼い一人娘を亡くし深い哀しみに打ちひしがれる。ほどなくして再び大学で教鞭を取る決意をし、歴史保存会の職員クレア(トリッシュ・ヴァン・ディヴァー)の勧めで山中の大豪邸を借りることに。
ところが入居して間もなく、突然ピアノが1音だけ鳴る、2階からボールが転がり落ちてくるなど怪異が発生、娘の霊かと思い涙に暮れるが、ソレは次第に駄々っ子のように振る舞い始め、ようやく何か別のモノだと気づき、クレアと共に原因を突き止めようと調査を始めるが…。
かつては度々TVでも流れた大好き作で、酷い惨劇もゾンビも不気味な死霊も出ない静謐な謎解きホラーです。
なにより紳士的で知的な正義漢である父親役ジョージ・C・スコットが素敵なんですが、その優秀な補佐役であるクレア役トリッシュ・ヴァン・ディヴァーも十二分に聡明で美しく、なのに昨今物議を醸しがちな恋愛展開にならないのも推し所かも。
冒頭から一瞬娘かと勘違いされるこの霊は微かに儚く、でも何かを懸命に訴え、ジョンを真実へと導きます。
彼は実に真面目に真摯にまずそれが娘ではない”ナニカの霊”と腑に落とすところから始まり、その邸宅の歴史や出自を辿り、ついには霊能者による『降霊術』によって会話を試みるが、わずかな手がかりしか得られない。
けれどソレは、時に駄々っ子のようにイラついてまとわりつき、ジョンの作曲の邪魔をしたり、広大な豪邸に響き渡る怪音を打ち鳴らしたりもし、ついには沈着冷静であるはずのジョンをブチ切れさせてシュンとなるのがなんかすごくイイんですよ。
オチは書けませんが、その”駄々っ子のようなわがまま”を、本当は誰に聞いて欲しかったのか。その事実を知ったジョンがどんな行動に出るのか…。静かな環境でじっくり見て頂きたい不朽の名作です。

 

 

さて。モキュ沼から少々離れてご紹介した「取り替え子の恐怖」アレコレ選ぶうち、そう言えば「オーメン」に出てくる悪魔の子ダミアンもいわゆる取り替え子だなと気づいたり。
これもまた昔はよくTV放送があって、この怪異は息子原因かも!となったあたりで出てくる「山犬の子」という台詞がわけ分らん意味分らんですごく怖くて。ダミアンは、愛妻家の父親が死産した妻の哀しみを慮って 妻に内緒で引き取った身元不明の孤児だったんすよね。
その前日譚でどうやらそこらあたりがググッと言及されるっぽい最新作「ザ・ファースト・オーメン(原題)」が2024年4月に全米公開となるそうなんで楽しみなんすけど、グレゴリー・ペックが出ないってだけでリメイクは途中リタイアしてるのにwついてけるかどうか^^;
次はモキュ沼に戻って「みんな大好き 廃墟突」か「ウソかマコトか いたら怖いUMA&エイリアン」で迷い中。
まだちびっとですが以前のページもこちこち加筆修正してるので、よろしかったら冷やかしてってくださいまし~!